saiが本因坊秀策の亡霊なのだとしたら、何のために今、現代に甦らなくてはならなかったか。
「私と打つためだよ」
その問いに対し、塔矢行洋はこのように答えた。
塔矢親子は不思議と、何も知らないくせに核心を突く台詞を吐く。そう、「佐為にとっては」それもひとつの答えである。
ヒカルにとっては話が違う。無論「佐為と話せる人間が虎次郎以後自分しか居なかったから」「囲碁を打つため」、今に甦らざるを得なかったという事実を含め、「自分にバトンタッチするため」蘇り、そして消えたのだという話になる。『ヒカルの碁』という「物語」としてもそれは正しい。
「進藤君と私は同じなのかもしれない。saiの強さを追っている」という行洋の言葉は蓋し正しい。ひどく哀しい追い掛けっこだ、と思った。
もはや佐為は居らず、ヒカルは「何処で佐為に追いついたか」を実感できることは一生ない。だからこそヒカルは、佐為でも及びも付かぬ高みに行ける可能性をも秘めているが、いつまで経っても追いつけないという徒労感を伴うだろうことは想像に難くない。
だが、それでもそれがヒカルの選んだ道である。佐為はあまりにあっさりと消えた、ヒカルに何一つ言い残すことなく、恨みも感謝も言わず、ただ黙って。
佐為はヒカルに「碁をやれ」とも「碁をやるな」とも言わなかったのだ。佐為の居なくなったのち、「打っちゃいけない」「笑ってたら良いな」「売店で買った」、……すべてヒカルが勝手に思い込んだと言っても差し支えない「ヒカルの望み」である。
佐為はなにひとつ望みをヒカルに託さなかった。望みを託されたとヒカルが思うこともまた、佐為がヒカルに与えた「無」の中からヒカルが自分の意思で選び抜いた夢である。
「物語としては」確かに佐為から受け継いだ「ヒカルの碁」が今ここにあることが正しい。だが佐為は、それすらヒカルに自由に選ばせていたのだ。碁を打っていない進藤ヒカルが今ここにあったとしても「現実としては」正しかった。
だがヒカルは今こうして打っている。
佐為が何のために自分のそばに居たか。その答えを自分に答えるために。
だけどそのせいか見えていないのはヒカルもアキラも同じ(笑)。
ヒカルは自らの裡に、アキラはその最も近い場所に、「ヒカルの秘密」を抱え込んでいるが、それを皆が知りたがっているということにはあまりに無頓着すぎる。まぁアキラのは言うに及ばず、ヒカルも下手に注目されることがsaiの正体を窮地に立たせるかもしれない可能性には気付いていないのだろうか。
いや、気付いていたとしても、あの子は進むしかないのかもしれない。下手なごまかしと嘘を重ねながら。
今回、とんだところからsaiの正体が正確にボロッと出てしまったわけだが、楊海自身はネタとして笑い話にしただけだろう。そのことでインスピレーションを受けたのは塔矢行洋のほうである。ヒカルとは別の意味で佐為に最も近い人物と設定されていた行洋は、彼自身がアキラと同じ業を抱えるが故に、アキラがヒカルを求めたように、saiを求める。神の一手を極めるために必要な、等しく才長けた相手。囲碁の神は孤独だとヒカルは言ったが、現在それに最も近いとされる行洋にも、それは言える。
ひとりで盤の前に座り、対極相手の一手を待っていた、あの姿。だが次を指すべきsaiは既にして存在しない。
行洋の希求に応えるのは果してヒカルなのか。いずれはそうとなろうが、それは今ではないことを、ヒカルも行洋も承知している。
ここでパパが黙って去るのは、実はヒカルに対する気遣いなのではないかとさえ思ってしまった(笑)。本当に友情より家族愛より碁を優先させる親子だなぁ(うっとり)。
ところでアキラの立ち位置がとてもとても気になるんですが。いや社君もそうだけど。
ヒカルの、斜め後ろ。……振り向くのだろうか、ヒカル。
以下、完全に来週のネタバレなので読みたければ反転させてください。とは言っても終局しているので、わかっている人にはわかっていることなのであまりネタバレではないかも。
ヒカル、結局負けでしたね、うわーん!(泣)
いや、それはそれで美味しい展開なんだけどさ、世界のトップにならんとしている高永夏に簡単に勝つなんて甘い展開はやはり用意してなかったのですねほった先生(^^;
今回の元棋譜は【第15回富士通杯(2003年)決勝 劉昌赫九段×李世石三段戦】。
黒ヒカル、白永夏となっていますから、このままの流れで行けばヒカルの半目負けです。楊海が「終局しますね」と言った直前のコマで、永夏の白が250手目。全263手ですが、後はとんとんと行く手しか残っていないのでしょうか。
因みに社×秀英戦は第5期名人リーグ第31局、アキラ×日煥戦は第1期トヨタ・デンソー杯世界王座戦第1回戦が元だそうです。
ここでヒカルが負けたことで、益々次期の三星火災杯に期待ができますね。そんときこそヒカル君、高永夏さんに勝つんじゃないかと。
ところで全然関係ない話ですが、現在はホントに初段のヒカルさん。でもろくにタイトル戦の名前も知らないヒカルさん、ヒカ碁の世界では大手合い形式が続くようですから、もしかして誰かが気付いてあげるまでずっと初段のままなんじゃ…?(自分で計算して自己申告する昇段の仕方を知らなくて・爆)
いやそれも良いですけど、「最強初段」って愛称(ちゃうやろ)めっちゃヒカルさんに合ってるからずっとそのままでも!!(おーい)
……青筋立てて計算させるアキラさんの姿が目に浮かぶようです(大笑)。ああッ、でも気付く前にまたでっかい大会かなんかで「なんでコイツが初段?」とか皆に恐れられてほしいんですけど!(……。) 大手合いは4〜10月だから、5月の若獅子戦ではまだ初段のままかな〜( ̄ー ̄)
どーせなら気付かず初段のままリーグ入りとか莫迦なことしでかしてくださいヒカルさん(にやり)。秀英に三星火災杯で会おうとか言われて「それって何?」とかお莫迦な姿また見せてくださいヒカルさーん!(…日月サーン。)