神様に着物の裾を捕まれとる天使みたいな。
アイツは突然そう言った。
「はぁ?」
何を言い出しやがんだ、と呆れてみせれば、大阪人は妙に真面目な貌で続けた。
「美しい」て思うものに素直に時間をかけられる、せやけど「仕事せんかー」って神様に怒られとる。
「…………。大阪人って、みんな芸人だと思ってたけど、実はポエマーの街だったのか?」
アイツはズルッと座っていた椅子から落ちた。……やっぱり芸人かもしれない。見事なコケっぷりに称賛を示すと、しゃーないやっちゃなぁ、と頭を撫でられた。
「しょうがない奴は、間抜けなおまえだと思うけど」
それでエエよ。アイツはそう微笑んで、もっと頭を撫でた。もうコナンじゃねーってのに、成人近い野郎の頭撫でんのなんか楽しいのかぁ? 言ったら、嬉しいといういらえが返ってきた。
楽しいじゃなくて嬉しいってのはどういうことだろう。
凄く赤くて綺麗な林檎。半分だけ皮が剥いてあるの。
アイツは憶い出したようにそう言った。
「はぁ?」
そういえばコイツは以前も林檎の話をしていたことがあったような気がする。林檎、好きなんかな。
凄く惹き付けられるんだけど、皮の剥いてある部分に触れてしまったら傷付けてしまいそう。
禁断の果実。でも惹かれる。
そう続けて、泣き笑いのような微笑みを向けられた。
「べっつに、触って掴んで食べりゃいいだろ? 全部剥いてさ。林檎は傷みやすいんだからな、腐っちまうぜ?」
アイツは苦笑して、食べる勇気がないから、代わりに腐ってもずっと手元に置いておけるのよ。
と背を向いて、紅茶を淹れ始めたアイツの、脇に置かれていたのはアップルティの缶だった。
「アップルパイも食いてーな」
今度作ってあげる。アイツは振り向いて微笑んだ。
キッチンの使える身体に戻ったことが嬉しいんだろうか。
動物で言ったらチーターかなぁ。
アイツはキリンを眺めながらそう言った。
「はぁ?」
何が、とばかりに首を傾げてみせれば、アイツはふふっと笑って大きく伸びをした。
新一のね、イメージ。動物で言ったらチーターだなぁって思ったの。地上最速の動物。何処までも走って行く、誰も追い付けない。
「ま、サッカーやってるし、脚には自信あっけど」
ホーント何もわかってないね。呆れたようにアイツは言った。何がだよ。ムッと顔を顰めれば、でもだから、そばに居てくれようとするのか、と空を仰いで続けられた。何処か寂しそうに見えて、アイツのなびく髪に手を伸ばしたら、くるりと振り向かれて腕は空を切る。
色で言ったら水色かなぁ。
この大空みたいな、と天に向かってキリンの首のように手を伸ばしたアイツが、何処かに行ってしまいそうな気がして手首を掴んだ。
びっくりした貌でオレを見詰めたアイツの、手首はとても細かった。
「窓、開けて待っててくれよ。盗みにいくから」
白い泥棒はそう言った。
何をだよ。泥棒が忍び込む手伝いなんか誰がするっての。
呆れて返したオレに、アイツは×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××――――。
アイツは、オレに、…――。
「――――…コナン」
アイツは、オレに、何と言ったっけ……?
「窓、開けててくれたでしょう?」