魔法は存在するのだろうか?
彼の方から進んで話し掛けられたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない。紅子は奇妙なものでも見るかのような視線で快斗を見た。対する快斗はいつものような歯切れの良さもなく、よぅ……と話し掛けたはいいが、そのまま視線を逸らして何やら口の中でもごもごと言っている。
「何、黒羽君。聞き取れないわよ」
「ああ、悪ィ……ええと」
何なのだろう、彼のこの様子は。あまり長い付き合いでないとはいえ、快斗の性分は割合わかっているつもりだ。このような態度を見せたのは実に初めてのことであった。
「話しにくいことなら場所でも替えましょうか」
とは言っても、既にここが人気の無い屋上である。話せないのは外因的な理由ではあり得ないだろう。ただ彼に話すきっかけを与えるために、紅子は敢えてそう言った。
「いや、いいさここで……あのな。変なこと、訊いてもいいか?」
「話によるけれど」
「オメーじゃねぇとわかんねーだろう話」
おまえじゃないと。鼓動の音を彼に聞かれてしまわなかっただろうかと心配するほどに、言われて一瞬心臓が跳ね上がってしまった。
頬が熱い。赤くなってしまっただろう貌を隠すため、紅子はフェンスの向こうへ顔を向けた。
「何なんですの? 一体」
「魔法って存在するか?」
魔女に対する質問としては不適切すぎるものだ、と紅子は顔をしかめた。彼ほどの知性と柔軟さがあれば、あながち魔法の存在を信じていなかったわけでもあるまいに。
「するわよ。今迄私が空を飛んだりしていたのを何だと思っていて?」
「悪ィ、おまえが魔女だってのを疑ってたとかじゃなくてな。何つーか……普通の奴でも、魔法に掛かったりするもん? 例えば……身体が幼少期に戻っちまったり」
「他人に魔法を掛けられるということかしら」
「そう。例えば若返りの実験体として扱われたとか。魔法ってのは要するに当時の最新科学技術だったわけだろ? 今の技術と統合したら可能なのかと思ってな」
快斗の質問の意図が紅子にはわからなかった。
「訊きたいのは若返りの魔法についてだけ?」
「だけじゃねーけど……うーん、まぁ」
「或る意味では可能と言えるわ。但し寿命が延びるわけではないけれど」
「どういう意味だ?」
紅子は空を見上げて一瞬瞳を閉じた。己の裡で知識を総動員し、思考をまとめるときの癖であった。
「八十歳の人間が魔法の力で二十歳の外見になったとしても、また六十年生きられるわけではなく、その人の寿命までの短い間しか結局は生きられないということよ。所詮は見掛けだけなの」
「外見だけなら、か。それってつまり、永遠の命……は存在しねーってことでもあんな」
それこそが錬金術の最終目的である。
「永遠の命なんてものがあるのなら……魔法なんて発達はしなかったのよ。黒羽君」
「……魔法の目的は?」
「人間としての英智を極めること。最終的にはそれによって人の意志を、肉体を、自由に操ること。自らの生命を手中に収めること」
「それは、永遠の命を得ることと同義か?」
「ええ」
「何のために?」
「え……?」
「何のために永遠の命なんてものが必要か、と訊いている」
彼の質問の意図を飲み込むのに多少の時間を有した。
「ひ……つよう……?」
万が一、永遠の命などというものがあったとしたらどうなるか? 彼の発した言葉の意図はそれだろう。紅子は一瞬にしてそれを解したが、だがその答えとなると瞬時には思い付かなかった。紅子にとってはそれを追い求めることは自明の理であり、彼女の日常に於て疑いようのない、疑ってはならない、根底に位置するものであった。
「必要無いと思うけどな。おまえの言うそれが目的なら」
そう、先程自分が言ったとおりではないか。永遠の命を求めることは自覚的であっても無自覚的であっても知識の拡大に繋がるだろうが、永遠の命が存在するということと、英智を極めるということは相反する概念である。人は死を恐れ自分の意識が途絶えることを恐れるからこそ、言葉を生み出し共通概念による意思の伝達を行い、己の意志を未来に残そうとする。永遠を求めて。
もし己が永遠に存在するのだとなったら、動物は繁殖などしないだろう。DNAによる情報伝達も、文字記号による意志疎通も、必要がなくなる。行わなくなる。それでも思考が止まることと同義にはならないだろうが、情報伝達媒体を必要としない思考は知識とは呼べない。情報は伝達と切り離せないのである。
自己完結した思考は拡大も縮小もしない。DNAもなくなる。図書館もなくなる。コンピュータもなくなる。言葉もなくなる。他人というミームも必要としなくなる。
それの何処が英智を極めるということに繋がるだろう。
「だ、だって。人は死が怖いでしょう? 死から逃れるために、だから、永遠の命を――」
「どうして怖いんだ?」
「……え」
「……動物的なことが人間らしい、っつわれるんだな……」
最後のそれは紅子に向けられたものではなく、自分自身に発せられた呟きだったようだ。快斗の視線は青空に向けられている。否、外界の何処をも見てはいない。
「……黒羽君。これ、引いて」
快斗は紅子に視線を落とした。紅子は険しい貌をしながら、セーラー服のポケットからタロットを取り出す。大アルカナのようだ、数が少ない。
「なに? トランプ?」
快斗の表情はいつもの悪戯っ子のそれになっていて、紅子は多少安堵を覚える。そして己の安堵の理由に気付いた。自分は今、彼が何処に行ってしまうと考えたのだろう?
「ほい。これでいいか?」
何時の間に擦り取られたのか、紅子の気付かぬうちにカードの一枚が彼のしなやかな指に挟まれていた。恰かもそこが最初から定位置であったかのように納められている。快斗がマジシャンであったことを、紅子は改めて憶い出した。
「見せて」
「ん」
そしてまた、気付けば紅子の手の中にカードが戻っていた。もはや驚かずに、そのカードを裏返す。
『THE FOOL』。
「何だ、今日の運勢でも占ってくれんのか? もーおオレ様ってば、毎日大吉で困っちゃう」
「……子供」
「あん?」
「あなたがいつもと調子が違うようになったのが、先日のブラックスターの奪取に失敗してから。そのとき新聞に載っていたのは何処かの小学生だった。いつかの時計塔の、あのときの相手は、子供だったの……?」
すっと快斗の目が細められたのも一瞬、すぐにあの、親しい者にしか見せない、不貞腐れたような表情に取って代わられる。
「だっからオレは怪盗キッドなんかじゃねーっつってんだろうが」
紅子は構わず続けた。このぐらいのことを気にしていたら彼の相手は務まらない。
「私の知る範囲で、あなたが中森さん以外に特別な興味を示したことってないと思うのだけれど」
「どうしてそこに青子が出てくるよ」
「まぁ中森さんに関心を覚える理由は予想できるからいいわ。問題はあなたが、ずっと他人に興味を持つまいとしていたという事実なのよ。今になって、何をそんなに揺らいでいるの、拘りたがっているの?」
紅子の知る限り、快斗は皆に好かれてはいるが決して深い付き合いはしようとはしていなかった。彼は怪盗キッドである自分の立場を十二分に自覚している。その異常性を。
戦争に行った者が平和な生活に戻れないといった話をよく聞くが、快斗が似たような過酷な状況を経験していながらも日常を過ごせるのは、キッドとしての自分を自覚し、敢えてそれを非日常として切り離しているからであろう。紅子はそう認識していた。彼はそこまで子供ではない。ただその記憶力によって、子供時代の感覚を通常人より憶えているだけの話だ。感覚の再現能力が格段に優れているのである。
「あなた、莫迦になったわ。何かに拘り始めている。一体何故? 何が原因?」
「こだわ……って、何だそりゃ。拘りあっちゃいけねーっての?」
快斗は訳がわからないといった体で眉を顰めている。紅子はわからなくなった。一体彼の何処から何処までがフェイクだろう。こういうときに演技達者な彼を恨みたくなるのは、自分がそれを見破るまでの経験を積んでいないことを自覚させられるからであろう。
「あなたが物事に拘る振りが、中森さんのためか、それとも別の原因なのかは知らないわ。だけど今迄それは演技の域を出ていなかったもの」
本当にそうだろうか。言いながら自信を持てない自分が紅子は哀しかった。
彼が人間を愛し、そこに留まろうとしていたのは確かだろうと思う。が、それは彼が自覚して行っていたのか、はたまた無意識でやっていたのかは、紅子にも知れなかった。もし無意識に行っていたのだとしたら、自分のこの問い掛けは無意味だ。
「……なぁ。個性って何だと思う?」
「?」
突如として振られた話題に紅子は首を傾げた。ランダムアクセスの早さによる発想の柔軟さでは、彼にはとてもではないが及ばない。何処からか連想されたのであろうが、それがわからない以上、紅子は現在の会話に付いていくことしかできなかった。
「人間の差異に与えられる、幻想」
「そう。じゃあその幻想が消失する瞬間は何処に在ると思う?」
つまり差異のなくなる場所を訊かれているのだ、と紅子は考えた。
「睡眠欲、食欲、性欲……そこら辺の本能と呼ばれるものかしら、人類共通の意識としては」
「生物としての本能、か。じゃあもう一つは?」
「……? そこから離れれば離れるほど、人間らしさ、つまり個性を求めるようになるから、差異が大きくなっていくでしょう?」
快斗はちら、と視線を投げた。紅子の心臓が跳ね上がる。「怪盗キッド」のときに時折見せる視線だ、と気付いた。
「いいや。一般にその動物と同じレベルのものが『人間らしさ』と呼ばれちまうんだよ」
「え?」
「例えば親が子供を慈しむ母性。あるから持てという問題とは切り離すべきだが、本能だよな。自分の子を虐待する母親が何て呼ばれるかわかるだろ。『人でなし』、だ」
逆に強調された母性は優しさ――人間らしさとして尊重される。握り締められた紅子の手が震えだした。
「じゃあ……本能から離れたものは? ……そうよ。子供を殺す母親。それが、本当の人間らしさ……?」
「じゃなきゃなんねーはずだよな、本来。そんな莫迦な真似、人間しかしねーんだから。だけどそれも中間点でしかない」
中間点。何処と何処の、であろう。紅子は彼の顔を見詰めたが、快斗の目は空から離れはしなかった。
「何のために母親は子供を殺す? そこに動物としての生活以上の意味を求めるからだ。それだけの知能を人間が持っているからだ。だけど自分の子供っつーのは、まぁ最も自分の模倣子とするには適した存在だよな? それを殺すなんて、個体の制限を越えて自らの知性を増大させようとする人間としては物凄ェ不合理だ。つまりは論理的な人間らしさからも離れてる、っつーことだ」
「論理的な……?」
「人間しか持ち得ない知性、だぜ。紅子。おまえらの求める、な。そんで持て得る知能を駆使して至る合理性なんて、とどのつまりはどの人間も大差ないってこった。つまりそれが」
「もう一つの人間らしさ……?」
「そーゆーこと。そっち側にも、じゃあ個性だなんて幻想は存在しねーよな。さて」
何故彼はこのような話をしているのだろう。
「けど最も一般的に用いられる人間性は、その二つだけでも語れない」
「え?」
「両極端過ぎる場合、片や機械のような人間だと言われ、片やケダモノのような人間と呼ばれる。ことも多々」
「そ……そういえばそうね……?」
「その中間点で、程良く中庸の人間らしさを醸し出している人間が優しいとされる。詰まる所、人間ってのは単純化しちまえば、二つの点を結ぶ線で表せる。そしてどの地点で呼ばれる人間らしさの概念も結局は生物らしさに還元できるっつートコがミソだな。で、さっき言ってた子供な」
正直、紅子は既に自分が持ち出した子供の話など忘れていた。快斗がまさかずっと自分の問いに答えていただのと、想像もできなかったのである。
「子供と大人の違いって何だと思う?」
「責任が取れるか取れないか……?」
「それは倫理的な側面からだな。今の話の流れから行けば、子供ってのは人間じゃない」
風が二人の髪を撫ぜた。快斗が自分の瞳を見詰めている。このまま時が止まればいいと思うことが永遠を望む心理かしら。ふと紅子は思った。
「……どの人間性がないと言っているの?」
「すべてから」
「?」
「そこまで動物的でもない。小さな子供は、動物の仔のように完全な本能で死に至る境界を理解している訳ではなく、時として非常に無茶をする。だがそこまで人間的でもない。他人に伝達するためだけの純粋な記号も持たない。彼等の知能はまだ自分に自分を理解させようとする努力で手一杯だ。そう、自分を理解してねーから、何処かの中間点で留まっているということもない。個性が一定してねーっつーことだな」
「子供は天才だって……よく言うわね」
「言うなァ。今言った、自分に自分を理解させるという行為が、振れ幅は人によって大小あるとは言え、人間をその線上の何処かの位置に留め置く。フレームに収まる。それが大人になるっつーことなんだろうし、個性ができるっつーことなんだろうし、他人を理解できなくなる、或いは他人を理解できるようになるっつー幻想を手に入れるってこった」
「だから大人じゃない子供は、位置不定な子供は、すべてをわかり、何もわからないのね?」
「……そんな奴に、出逢った」
快斗の遠い眼差しの所以に触れ、紅子は瞠目した。そんな「子供」に眼差しを向けていたのならば、確かに視線は定まることがないだろう。だがそれとは裏腹に、彼の思考が「大人」のように凝り固まっていっているように見えるのは何故であろう。
「その人は、本当の子供……ではないのね?」
「ん? 年齢のことか? あー、同い年……確か」
「中森さんと、同じ……?」
「青子ォ? いや、……どっちかってーと、オレと同じだよ、アイツは。不定じゃなくて、単に振れ幅が一般よりずっとデカいだけ。子供になろうとしてんの。アイツにもオレにも、子供時代の記憶があんまねーからな」
カラカラと快斗は笑った。子供のように無邪気な笑いだった。
「それは……本当の子供と、何処か違うの?」
「いんや、外から観察される事象に違いはないだろうから、オメーにゃ関係ねーよ」
カッと頭に血が上ったのを紅子は感じた。
「私には……ッ、なくても、黒羽君にはあるんでしょう!」
叫ばれて、快斗が驚いたように紅子を振り仰いだ。彼女の目は涙に潤んでいる。
こんな自分は嫌いだ、と紅子は思った。感情をここまで単純化できる自分を、快斗は恐らく気に入るだろうが、それは神様が人間を愛するような、人間が石ころを愛おしく思うような、そんな感情でしかないだろうと紅子は思っている。哀しくなった。彼と同じ世界を見ることのできない自分という存在が、とても淋しかった。
「……悪ィ」
ややあって、快斗の口からぽつりと、そんな言葉が洩れた。俯く紅子の頭に乗せられる、大きいのに繊細そうな手。益々涙が溢れてくる自分を自覚して、紅子は顔が上げられない。
「オレも余裕なくなってんだ……ホント悪ィ。今、過渡期だからな……」
「過渡期……?」
「……親父に、取って代わられそうなんだ」
「……お父様?」
快斗の父親が亡くなっていることは紅子も知っていた。 快斗にとって父親は道標であったと言って良い。幼い頃から快斗が目標とし、失われてしまったことで却って指標の象徴となった天才マジシャン、黒羽盗一。そして初代怪盗キッドとしての位相も兼ね備える人物。
その道標が、その子供に摺り替わろうとしているとでもいうのだろうか?
それこそ快斗のトラウマも越えて?
快斗の瞳が動き、それは深い色を湛えた水が静かに波打つように辺りの空気を動かした。怪盗キッドの名は伊達ではない。彼は居るだけでその場の雰囲気を変えることができる人物である。だが初代の怪盗キッドとはどのような人物であったのか、紅子は知らない。
「なぁ……何で怪盗キッドは泥棒なんて始めたんだと思う?」
快斗の口調も視線も酷く穏やかで、普段の彼からは想像もつかないほどの静謐さであった。これも快斗の相の一つであるならば、自分はこれから先、どれだけの快斗に出逢えるのだろう。
「一般的に考えれば、お金を得るため。でなかったら、悪という栄誉を手に入れるため、または社会への反抗……こんなところ?」
「じゃあ探偵は何のために探偵なんてやってる?」
「え? そうね……一緒じゃないかしら。お金を得るため、名誉を手に入れるため、ないしは正義感?」
「……『職業』だったら、そうかもな」
「え?」
「どっちも『趣味』だったらどうする?」
まだ紅子は仕事と趣味の違いがわかるほど世間というものを知ってはいない。どれだけ学校で義務を叩き込まれていたとしても、生活することは彼女にとってまだまだ自分の手に掛かっているものではなかった。生きるためにしなければならない義務は、紅子の遊びの域を出ない。快斗の言った言葉の意味はわからなかったが、一つだけ理解したことがある。
「あなたにとって、怪盗キッドであることは趣味ではなく仕事なの? 初代からのものを受け継いだ」
「だーっから、オレはキッドなんかじゃねーっての」
「そしてあなたの愛する人は、趣味で探偵をやってる子供なの?」
盛大に吹き出し、咽せた快斗を紅子は何故か優しい気持ちで見詰めることができた。この人は自分の本心も把握できないほど、冷静であることを自らに強いてきたのだ。それを崩されている現在の状況もわからぬほどのその混乱を、他の言葉で表す術も知らない可愛い人。知らず、紅子の口唇には柔らかな曲線が刻まれていた。
「あ、愛するって……アレを?」
「さっきのあなたの言葉だと、愛することほど永遠から遠いものはないわね」
ん? と快斗は笑いを止め、顔を上げた。
「まぁ……そうだな。他人との差異の中に生まれる錯覚が愛なんだとしたら、それは移ろいやすい生物の情報交換の中にしか生まれねーから。永遠を生きることのできる流動性のないそれには、そもそも愛なんて情報ってか概念かな、はねーだろうな……」
「その人は子供だから愛を知らないんですの?」
「…………。おまえは、永遠の命を欲しいと思うか?」
寂し気に微笑んで快斗が問う、それは紅子の背中に電流の走るような快感を齎す。好きな男の普段からは想像できない姿を目撃するとこんなにも簡単に欲情するなど、紅子は今迄知らなかった。自分ではない相手のために、その男はこんな顔をしているのだと知っていても止められない。高潮した頬を隠すため、彼女は夕日の沈みかけた赤い空に顔を向けた。
「……周りが死んでゆく中、たった一人で生き続けるなんて、考えただけでも地獄かもしれない」
魔女としては言ってはならない言葉だったかもしれなかった。だが今、快斗が自分に本心からの貌を見せていて、紅子はそれに対して虚偽で飾り立てた言葉など吐きたくはなかった。魔女の末裔としては見せてはならなかった貌、考えることも許されなかった思考、だがそれは彼女の嘘偽りない本心だったのだろう。
快斗の顔半分が夕焼けに染まっている。
「孤独ってのは、本人が自覚しなきゃ孤独にもなんねーんだろうがな……見てるこっちが痛いから、一人にさせたくないってのは傲慢だよな……」
「単にあなたがその人のそばに居たいだけでしょう」
瞠目する快斗に、彼の子供時代の終わりを知る。紅子はキッとそのプライド高い眼差しを快斗に向けた。
「その人が魔法に掛けられているというのなら、あなたがその魔法を解いてあげなさい。現代の魔法使いなんでしょう、怪盗キッド」
「本人が望んで魔法に掛かっているのだとしても? その生き様を否定する残酷な行為だとしても?」
快斗は酷く苦い苦笑を顔に刷き、言った。
「なぁ……アイツに愛を教えてやれば、アイツを永遠から開放してやることができるんだろうか?」
そして始まる長い余生の中で、あなたは人を愛することの素晴らしさを学んでゆく。
――そうすれば、オレはおまえを殺さなくても済むんだろうか?