Kiss....xxx

Novel

 大好きな人が居ます。

 その人は私のことを嫌ってはいないけれど、そういう意味で好きではありません。

 その人には付き合ってるような感じの人が居ます。

 だけどその人は、その相手のこともそういう意味で好きではありません。

 そういう感情を知らない人なのです。多分そういう感情を知ることが許されない人なんです。だけど優しい人で、求められると自分の持っているもの全部あげてしまいたくなるような人なのです。

 そばに居てと私が言えば、きっと一晩中でも手を繋いでいてくれるのでしょう。優しくしてと誰かが言えば、きっとできる限り甘やかすのでしょう。

 そうして沢山の人の中にそのぬくもりを残していって、だけど誰がその人にぬくもりをあげられたのでしょう。

 弱音を吐かない人です。

 傷付いても一人で立ってしまう人です。

 沢山の人を傷付けて頂に立ってきたことを自覚している人だから、決して高いところから降りてはこられない人なんです。

 頂に、たったひとりで。

 彼の為した行いで死んだ人が居ます。だけど彼は正しいから、誰よりも正しいから、誰も彼を裁くことはできないから、彼は自分で自分を裁きました。誰よりも高く在れという罰を自らに科して、自分に敗れた人達を敬うように。

 私は彼を泣かせたくて、彼よりも強く在ろうとして、でもぬくもりに負けて先に泣いてしまったから。

 それでも私がそばに居続けることが、彼にとって意味があるのかを考えました。でも会いたいと言ってくれたから、その言葉を信じないで傷付けることが怖くて、……いいえ、ただ私がそばに居たくて、居ました。

 何もできなくても、時の奇跡を信じてみたかったのです。ただそばに居るだけでも、長い時が積もればそれだけで何某かを伝えられないかと、信じたかったのです。

 彼にそういう相手ができたと聞いたとき、嫉妬より驚愕より、懸念が前に立ちました。また彼に甘えるだけで、彼をいつか捨てるだけで、今の快楽にのみ溺れて彼を求めて、そんな人だったらまた彼を傷付ける、と。

 会ってみて驚きました。変な人でした。余程その人の方が恋なんてできない人でした。なのに彼を好きだと言うのです。

 つい、どうしてと尋ねてしまいました。

 莫迦になりたいからかな。その人はそう応えました。

 付き合うの? とキスをしてる二人に訊きました。まさか。と彼は応えました。そんなどうでもいい相手じゃないから、こいつとは付き合わないよ、と。

 神様。

 信じてないけどどうか神様、存るのなら。

 私は泣きました。涙を落とした私に驚いて近付いた彼にキスしました。そんなこと気にも留めない様子で、彼は私を抱き締めました。

 何て意味のないキス。でもそんなことどうでもよかった。

 彼にとっては、あの人とするキスも私とするのと同じくらい意味のないことなのです。

 何をされても意味のないことなのです。そんなもので汚されて泣けることはない人なのです。それが哀しくて哀しくて。

 彼にとっては意味のないことこそ意味があるのです。それに意味を求めようとして傷付く人達は結局彼を傷付けるので同情はしませんけれど、傷付いても尚。それでも誰か。

 彼が自分を愛せるように、天上人としてじゃなくただの卑小な人間として愛してあげて。それができないのならせめて、彼がもう少しでも自分を大事にできるように、徹底的に彼を傷付けて。

 彼がキスなんかしたくないと思えるようになるほどに、どうか彼に意味を求めてください。

 私は愛せませんから、彼を傷付けて傷付いてそれでも愛するほどには彼のことを愛せませんから、どうかあなた。

 あなた、どうか莫迦になって彼を救って。

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