正月も一日から「初詣!」などとオレを引っぱり出した怪盗は、今は高校生の姿で合掌などしている。呆れつつ、オレも手を合わせた。初詣の習慣はオレにはなかったが、この日本人の無宗教振りもお祭りと思えばそう気分の乗らないものでもなかった。
「ボウズはさ」
「ん?」
破魔矢を手にしつつ、不埒にも巫女さんにひらひらと手を振って頬を染めさせた快斗はオレに視線を当てた。
「何を願ったんだ?」
何を真面目な顔で訊くかと思えば、と呆れた顔を見せてやる。
「何にも」
「? 願いは自分で叶えるものだから?」
首を傾げたヤツは、オレの言った意味がわからなかったらしい。オレから言わせれば、あんな場で何かを願う方が理解不能なんだけど。
「だってさ、神様だか仏様だかキリスト様だか、何でもいいんだけどさ。奴等って人の願い、叶えてばっかじゃん」
「ちょっと違ェけど、まぁそんなもんか。だってそれがお仕事でショ」
「まぁそうなんだけどさ。別に取り立てて願いもないオレみてーな奴が、偶には奴等の願いでも叶えてやろーって気になったって別にいいだろ」
「え」
「別にアンタらの説く正義なんかにゃ興味はないですけど、取り敢えずは謎解くの趣味だから、オレが犯罪は阻止してやるから、って」
見上げたら、アイツは驚いたような貌をしてた。何でだ?
ああ、だけどこの行為も結局、他人の望みを叶えてやりたいって自分の欲望を満たしてるだけだなぁ。他人のために祈ってあげる行為も、自分のために祈るのと何ら大差はないらしい。別にどうでもいいけど。
そんなことを思いつつ足許の砂利を鳴らしながら歩いていたら、いきなり後ろから抱き上げられた。制止する間もあればこそ。気付けば奴に抱っこされていた。
「おいッ、何しやがる!」
「寒いから」
自分より下に来た、快斗の瞳が一瞬泣きそうに見えたのは気のせいだろうか。口を噤む。
「寒いから、こうしてずっと抱き締めさせていてくれな」
そう言い、歩き出した奴の肩は揺れていて、落ちないよう手を掛ける。
「……しゃーねー奴」
「ああ。しょーもねー奴だから、おまえの望みはオレに叶えさせてな」
「あ?」
「おまえが神仏のために祈ったように。オレに名探偵のために祈らせて?」
わからなくて首を傾げたけど、アイツは笑うだけだった。ただ笑って、腕に力を込めるだけだった。そのぬくもりが気持ち好くて、振動に任せて瞼が落ちてゆくと、とても近い場所でアイツの笑いを含んだ吐息を感じた。