普くマジックたるものは、騙すことで決して真実騙されはせぬという安心感を人々に与えている。
普くマジックたるものは、タネも仕掛けもないと言うことでタネのあることを人々に示唆している。
普くマジックたるものは、マジックであると言うことで人々を真実から遠ざけて騙している。
「さぁて皆様、取り出だしたるこのシルクハット、当然タネも仕掛けも御座居ません――」
こどもは不機嫌にも聞こえる低いこえで言った。どうやら興奮しているらしい。
「おい、黒羽」
「なぁにン?」
「さっきの、あれ」
「あれ?」
「最後のッ」
「最後の?」
「そうだよ、最後のッ何だよあのシルクハット、ホントにタネも仕掛けもなかったろう!」
一息に叫んだこどもは、顔を紅くして肩を上下させている。
流石だね名探偵。口笛を吹きたくなった魔術師は、だが蹴られるだろうことを回避してか、代わりにポンッと手から薔薇の花など出してこどもの手に握らせたが、本当の子供は当然、そんな大人騙しのものではごまかされてくれなかった。
「おい」
「うーん、あれはな。心理実験」
「何の」
「マジックって言えば、ホントの魔法でも人間はタネも仕掛けもあるモンなんだって、ごまかされてくれるんだって証明」
「……魔法?」
言葉に、こどもの目が輝く。
これだから、騙されることも知らないガキは嫌いなんだ。マジシャンは心底楽しげに笑った。