少女は雪よりも白いその貌に、笑みを刷いて言いました。
ねぇ、――。私、サンタさんに会いたいな……?
囁きは儚く、願いは叶えられるべきだと僕に思わせるには充分でした。
一週間。その呟きから一週間が、僕に許された時間でした。
ちょっと忙しくなるから。
そう、しばらく来られないことを告げて、赤と緑に染まる街を駆けずり回って用意した様々な仕掛け。僕はサンタなど居ないことを知っていました。でもサンタになれることを知っていました。
そうして忍び込んだ、聖夜に入ったばかりの深夜。覗き込んだ彼女の貌は、外に降る雪と同じだけの体温しか持っていませんでした。
咆哮。
どれだけの言葉も泪も足りるものではありませんでした。嘆きも追いつかないほどの悔恨は、僕に幻を見せたようでした。
灰色の昊から降ってくる、雪よりも白い天使達。
この悪魔。僕は叫びました。連れて行く気か、彼女を連れて行く気か。手にした白いプレゼント袋で殴りつけた彼等は、薄汚れたしろなど意にも介さぬように、ひらり、ひらりと。
僕の手を擦り抜けていった少女の命のように、するりと。
嗚呼、わかっているのです。僕が殴りつけたい相手は僕なのです。叩き付けたこぶしは雪の張り付く硝子を割って、地に積もった白にあかいろを流し込みました。
その手にふれたぬくもりは、僕の自己防衛から来る幻でしかなかったのかもしれません。でもそれは僕に必要なものでした。
僕の手をあたたかなてのひらで包んで少女は、笑ってひたいにキスひとつ。そうして昊に消えていきました。
有難う、サンタさん。有難う、――…。
背負うものはおおきく、重く。このサンタの袋よりも、ずっと、ずっと、それは年を経るごとに降り積もる雪によって更に重く。それでも、僕はたったひとつの言葉をよすがに。