「うわー、綺麗……!」
窓に映り流れゆく様々な色彩が、エアリスの表情を恰も弄んでいるかのよう。外の景色に見とれているエアリスの横顔、クラウドはそれを飽きずに眺めていた。
「ねぇクラウド? 綺麗だね」
不意に此方に振られ、クラウドは一瞬焦ったが、その人形のように整った貌にはどうやらそれは表れなかったようだ。
「ああ……」
と曖昧な返事を返す。まさか景色も見ずに彼女を見詰めていたなどと、クラウドには間違っても言うことは出来ない。
二人はゴンドラの中にいた。明日には古代種の神殿に向かおうというさなか、「約束のデート一回」とエアリスに連れ出され、今こうしている。
窓の向こうに見えるゴールドスクエアの光の波、まるで水に揺蕩う魚になった気分で、クラウドは空の深さの瞳を閉じた。
「クラウド? どうしたの、ゴンドラ、酔っちゃった?」
心配気なエアリスの声。目を開けなくともわかる、きっといつもの自分を甘やかすような優しい瞳に、気遣いの色を浮かべている。
目は開けぬまま、クラウドはうっすらと口唇に曲線をのせた。
「何でもない、ちょっと……」
「……?」
「……。光に、酔ったみたいだ」
刹那、エアリスは目を見開いて、やがてそれは柔らかな笑みに取って代わられた。
「──そうね……」
落ちる沈黙。優しい静寂に包まれて、流れる時もいつもより緩やかに感ぜられる。
「ねえクラウド」
エアリスの呼び掛けが、閉じたままだったクラウドの瞳を開けさせた。セフィロスのものにも似た、水の翠の瞳が映った。真摯な色を湛えている。
「私、あなたを探してる」
「……? エアリス?」
「あなたに会いたい」
やにわにエアリスが消えてしまうような不安に囚われて、クラウドはその細い手を取った。
「……。俺はここにいる」
やんわりと微笑むと、エアリスは
「ええ。でも──」
それきり口を噤んでしまった。
クラウドも、何も言わなかった。
『でも──あなたを、ずっと探し続ける』
星のささめきが聞こえる。エアリスにはわかっていた。自分がもうすぐ、星に還るのだということが。
それに対する、不安も恐れもなかった。イファルナも待っている。ただ目の前のこの、見ているだけで痛い存在を、ひとり残してゆくことだけが心残りだった。
彼も何時かは星に還る。彼女の許に還ってくる。それまで、どのような時を過ごすのか。
エアリスは、彼の幼馴染みを思い浮かべる。ライバル、でも、親友。大好きだった。彼女なら、自分のいない暫くの間、彼のことを守ってくれるだろう。そして、きっと二人で自分の許に還ってくる。
『きっと、大丈夫』
エアリスはティファを信頼していた。それでも不安なのは…、彼から離れたくないという、自分の最後の未練なのだろう。
『待ってるから……』
あなたの行き着く先に、私はいるから。
『還ってきてね』
そのときこそ。