The Lords of the Ring A Day without Rain

引用

英雄(Hero)

 「生贄として女神ヘラに捧げられた男性」を指したギリシア語.この語の起源は,おそらく,サンスクリット語ヘルカHeruka(「知識を抱いている神」)にあり,それが,供犠の死を遂げる神としてのホルス−オシリスを指す古代エジプト語ヘルHeruまたはハラクティHarakhtiを経て,ギリシア語に取り入れられたものと思われる.ギリシアの五月祭は,ヘロアンテイア(「英雄が花開く」)と呼ばれた.この場合の「花」は,豊穣をもたらす英雄の血を指した.英雄の血は,赤または紫の花で表わされ,聖書の中で経血を指すのに用いられたFlowersと同じ言葉で表現されていた(『レビ記』15:24).したがって,五月祭の英雄は花の神(ナルキッソス,ヒュアキントス,アドニス,あるいはアンテウス)だったのである.これらの花の神たちは,本来は同じ1柱の神であり,その神は,アフロディテの愛人だったことから,ときにはナーマン(「いとしい人」)と呼ばれた.

I

 ウィンヒルには相も変わらず花が咲き乱れていた。

 夏の白い日差しをいっぱいに浴びて、自身でもひかりを発しているかのように、花々は他の季節の仲間よりも色鮮やかに、婀娜を競って媒介を誘っている。素直に誘われたスコールは、ここかしこで咲く花より余程花めいたかんばせを垂れて、茎を引き寄せ香りを楽しめば、花は揺れて花粉を飛ばした。

 恵みの雨に媒介された花のこどもを想像しながら、ラグナは手を額に翳し、瞼の上に影を作った。スコールの姿がむこうによく見て取れる。慣れてしまえば普段あまり意識はしないが、こんな風景にたたずむ彼の姿を見ると、やはりひとりの女性を彷彿とさせる容貌なのだと改めて認識し、ラグナは懐かしむようにも切ないようにも瞳を細めた。

「スコール」

 呼ばれて振り向く彼の貌は無防備に幼く、親の庇護の必要性を、罪悪感も相俟って感じさせるものではあったが、自分が親めいた行動を取るたび見せるスコールの、こちらの真意を閲するかのようなまなざしを、ラグナは知っていた。自分でもよくわからぬ親の名に於いた行動など演じる道化を、期待しながらもあのまっすぐなまなざしは見抜いて失望してしまっているのではないかと、時折思う。

「そろそろ帰るか?」

 近付いてくるスコールの頭をくしゃりと撫ぜれば、一瞬びくりと震えて緊張は見せたものの、それは厭ではないらしくわずかに表情を緩められるのに、ほっと息を吐く。自然に親子であるには、あまりに離れていた時間が長かった自覚が、お互いにあった。それでも今日だけは親でありたいと、多忙な総指揮官を呼び出してしまった自分に苦笑する。

「何処に?」

 伝説のSeeDの評判を聞いたことがあった。ラグナの聞いた賞賛も誹謗も、共にスコールの無表情なまでの冷静さを示していたが、ウィンヒルの村中に行きづらい自分を気遣ってこの心配を滲ませた表情を見せるスコールの何処が冷淡と評されるのか、ラグナにはわからなかった。わからぬが、それを自分の認識不足と卑下することも理解が深いと自賛することもなく、ラグナはただ目の前にあるスコールを受け入れることに決めている。予断に囚われてスコールの表情、仕種、ひとつひとつを見逃してしまうことが怖いさえ思うほどに時間を惜しむ気持ちは、ふたり離れていた時間の長さを示してもいた。

「んー、考えてなかったなーそういや」

「あんたな……」

「けど風冷たくなってきたし、おまえ風邪ひいたりしたらヤだし」

「……ああそうか、あんたは風邪ひかないんだな」

「何が言いたいのかなー、スコール君」

「別に?」

 ふわりと、はなびらが風を孕んで一瞬ふくらむように、スコールが幽かにも微笑んだ。この頃よく見せるようになった笑顔のためなら、喜んでピエロにもなろうものだと思う。

「……もうちょっと、ここに居てもいいか」

 やわらかな視線のまま、スコールが向き直った先には彼の母親の墓碑。返事の代わりに、自分の羽織っていた上着を、高原の冷たい風から守るように彼の薄い肩に掛け、自分はそこに寝転んだ。半袖から出た腕に草がちくちくと容赦無く剣先を向けたが、無視して頭の下で腕を組む。真上から照りつける太陽があつい。

「……焼けるぞ」

 聞こえなかった振りをして、ラグナは瞳を閉じた。困ったように首を傾げたスコールは、ラグナの顔に影を乗せて動けないでいる。時折、風に煽られて、スコールの肩に掛かった上着の影が形を変えた。風は涼しく、日射しは熱く、草花は生きている。高原の気候であった。こんな中で、レインは生きていた。

「……いつ言おうか、迷ってたんだ」

「なにを」

「オレが言っていいものなのかも、ちったぁ考えたけどよ」

「……?」

「でも、やっぱり言いたくて呼び出しちまった。悪いな」

「構わないが……だから、何を」

「気恥ずかしくってあとでにしようかとも思ったけど、やっぱレインの前でが、いいよな」

 うっすらと瞼を上げれば、視界を霞に遮る長いまつげのむこうに、スコールの顔がややぼやけて映った。日差しを遮ったまま、膝を折って四阿のようにラグナの顔の両脇に手を突き、逆さに顔を覗き込んできたスコールと視線を絡めてラグナは微笑み、言った。

「誕生日、おめでとう。スコール」

 そのとき、一瞬の明ら様な驚愕ののちにスコールの貌に浮かんだ、得も言われぬ表情を何と評して良いのか、ラグナには今以てわからない。

 それはとても感情めいてはいた。激情が零れる瞬間のようにも、見えないこともなかったがしかし、それはひどく静謐であった。泣き出す瞬間のようにも見えた。怒り出す瞬間のようにも見えた。或いは笑い出すかのように口端は緊張を見せてはいたが、眉根は強張って良いものか、迷いを見せて揺れていた。結果としては、それらはほとんど表に出ることなく、スコールの表情はいつものような抑揚に乏しい殻を見せていたが、眸だけが仮面を裏切っていた。

 どんな表情を取って良いのか。或いはスコールが思ったのはただそれだけやもしれなかったが、恣意的にも感情を単純化してきたラグナには、表情と感情の噛み合わせを行うのが難いという状況などわからなかった。それが理解外であるほどには、ラグナは自分に対してまで嘘を吐くことに長けていた。

 こどもの複雑さを理解することなく、だがそれでも理解したいと伸ばされたおおきな手は、頬から耳、首筋にまで至り、スコールに熱を伝え、スコールの心音を伝えた。とくり、とくり。彼としてはとしては早いのか遅いのか、それすら知れなかったが、伝わる振動と熱が心地好くこころに拡がり、ラグナは笑みを深くした。

 生きている。

 今以て一度としてドッグタグを外したことのない彼が、未だにいつでも野垂れ死ぬことを承知している彼が、生きたいと思い、生きていることに感謝した。そうして憶い出したようでもあった。昔、同じほどの強い感情で、生を切望したことがあったことを。

 ふたり、同じ指輪を嵌めて抱き合った夜。必ずエルオーネを探し出して二人で生きて帰るからと約束した。

 果たされることのなかった約束は、今もラグナの胸に突き刺さり、彼を殺し続けている。

 そのまま刺さった部分から壊死して朽ちてゆくことを、望んでいるとも望んでいないともレインに命を守られたはずのラグナには言うことができなかったが、今、確かに生きていてよかったと思う。生きたいと望む。彼女の残した、彼女と同じ体温の生き物と共に。

 初めてしっかと、妖精さんが確かに生きている人間なのだと、確信できたような気がしてラグナは、苦笑にも似た色を貌に刷いて、もう片手をぬくもりに伸ばした。

「スコール」

 ラグナの指に伝わる彼の鼓動は早くなっている。

「スコール」

 呼吸困難でも起こしたかのように、そのくちびるからは吐息も洩れない。

「生まれてきてくれてあんがとな、スコール……スコール?」

 スコールが自分の誕生日を知らなかっただのと、ラグナは知らない。エルオーネに聞いて、一目でも会いたいと誘い出した誕生日。仲間達とでも約束が先にあればすぐに諦めるつもりで直前に申し出、だがあっさりと返ってきた承諾のいらえに多少疑問も抱いた。訝しんだものの、まさか彼にとっては今日が何物でもない褻の日だったのとは思いも寄るまい。

「スコール……?」

 スコールは無表情とも取れる錯雑した表情のまま、だが腕を伝って降ってきたあたたかな雨。曇ったはずの瞳の色は、それでも空と同じく抜けるような青さのままだった。

II

 不覚にも涙を零したスコールに、訳もわからなかったろうに何を察してかラグナは、何も言わず微笑んだだけであった。

 ただ黙って、泣きやむのを待っていた。横に座って頭を抱え込むようにこどもの髪を撫でながら、いつしか幽かな震えも完全に収まった頃、行こう、という言葉と共に手を引き、何事かと怪訝に首を傾げたスコールを連れて村中に入っていった。

 恐らく十何年か振りに姿を見せたのだろう、だが風体のほとんど変わらぬ男に、村人達が驚いて隠すこともない嫌悪と好奇の視線を投げてくる。スコールは慌ててラグナの肩を掴んだが、そのときになってやっと、むしろ自分のほうが衆目を集めていることに気が付いた。

 以前訪れた際には終始俯き加減で、殺気とも呼ばれそうな峻険たる雰囲気をまとっていたスコールに、大半の村人は視線を合わせぬどころか避けて近寄ろうともしなかった。ラグナと一緒に居るスコールを見て、村人達もようやっと気付いたのであろう。レインによく似た、その面差し。

 レインとラグナの子供なのだと。

 衝撃は、彼女を見殺しにした男に対する怒りまでをも凌駕したらしい。村人達は皆一様に、何かの感動に取り憑かれたかのように瞳を潤ませ、レインの名を呟きながら二人を凝視し、咽び泣く老婆まで居た。そのような視線にどう対処して良いかわからず、困ってラグナを見上げれば、相も変わらず彼は微笑むのだ。昔と変わらないかのような体で、変わってしまったはずの自分に気付けもしないかのように、幸せそうに。

 もしかしたら本当に自覚がないのかもしれないとは思う。影を作る隙さえ与えぬほどの光源などスコールには想像もできないが、或いはこの男の広さのようなものをこそ言うのかもしれないと思った。何もかもを抱え込める広さがありすぎて、彼の痛みも苦しみもそこに落ち込んでしまい、少なくともスコールにはまるで影など見えない。だがそれでも存在を感じる。大統領官邸に掲げられたウィンヒルの絵に。外されることのない銀色の細い指輪に。

 人々の視線を集めながら辿り着いたのは、花を模してモザイクの敷き詰められた広場に面した、一軒のパブ。言わずもがな、昔ラグナが連日上がり込んでいた、そして恐らくはスコールが生まれたのだろう、その場所。レインの店。

 もはや開かれてはいないパブの今の持ち主は、突如として再訪したスコールと何よりラグナに、やはり驚いた様子を隠しもしなかったが、以前のスコールの訪問に感じるところがあったのだろう。やっぱり、と呟き、泣き笑いのような表情を、その皺の刻まれた顔に乗せた。

「……お久し振り、ラグナ」

「……ご無沙汰してました。サロメさんにもお変わりなく」

「あなたは……本当に変わりなく笑うのね」

 何処かが血を流して痛んだ気がして、スコールはシャツの胸元を握り締めた。もう片手はラグナの手に包まれたまま。サロメと呼ばれた女性はそんなスコールの肩に軽く手を乗せ、しばらく出てくるから自由にしてらっしゃい……とまるで母親のような貌をして、キィと音の鳴る古びた木の扉を押し、白く光にけぶる風景の中に出て行った。

 それを目で追ったスコールが視線を仄暗い部屋に戻せば、ラグナはカウンタに歩み寄り、懐かしいだろう木製のカウンタや椅子を、愛しげに撫でる。まるで切ない愛撫のようにも撫でている。

 レイン、とラグナにも聞こえないような吐息めいた呟きで、こどもは彼女を呼んだ。

 以前にここで見たレインの幻影が何であったのか、スコールには確証が持てない。仲間達には見えなかった、スコールにだけ見えた儚げな姿が、或いは自分に授かった能力によるものなのかと思わないでもなかったが、せめてラグナには、ラグナだけには、その姿を見せてほしかった。必死に名を呼ぶ。名を。スコールにだけ許された代名詞を。

 おかあさん。

 応えてくれることなど、端からわかっていたことだった。果して現れた優しい風貌、切なげに瞳を細めてスコールは、彼女と視線を交わした。実際に合っているわけではなく、それはスコールが合わせただけのこと、彼女には何も見えてはいない風で、視線は自然と外された。

「ラグナ」

「うん?」

 こちらを振り仰いだラグナに、もし見えるのならば彼女が目に入らないはずはない。もしも見ることができるのならば、しかしそれはスコールの儚い願いでしかなく、やはりラグナの表情には何の変わりもなかった。

「なんだ?」

 レインの立ち回る場所、手を伸ばす位置、それらが、当時のままにしてあるとは言え現在置かれている家具の配置からは微妙にずれている。もはや、それの意味するところは一つしかなかった。

「ラグナ……昔。これは違う場所にあった……よな?」

「あ? あー……あ、うん、そうかも。そっちだったっけなー。そうだよな、昔おまえ、オレん中入って見てたんだもんなぁ」

「……ぅ」

「え?」

「……いや」

「?」

 ずっと気になっていたことがあった。エルオーネに送ってもらったはずのリノアの過去、確かにスコールはリノアの意識に入り込んではいたが、視点はあくまでもその当時の自分の場所からものであった。だからこそ、アルティミシアはあくまでも振り向かねばならなかった。スコールに対し、振り向かなくてはならなかった。

 エルオーネはあくまでリノアにスコールを送っていたにもかかわらず、その力が捻じ曲がったのは、恐らくこの現象と同じところに起因するのだろう。

「ラグナ……」

「だからどうしたよ?」

 何処か諦めたような貌で微笑んだスコールに、ラグナは若干眉を寄せて近付こうとしたが、その前にスコールの口が開いた。

「ラグナ、レインが居るんだ。……ここに」

 幻とはいえ指差すのは躊躇われて、スコールは細々しく動き回る彼女の居るあたりを手で示した。

「……は?」

「過去のレインだけど。過去を見てるだけだが。俺には見える、確かに」

 ラグナは応えなかった。口唇が物言いたげに揺れはしたが、スコールが幾ら待てども結局言葉は出てこずに、その沈黙がいっそスコールに悟らせる。

「ああ……やっぱりそうなんだな。そして知ってたんだな、あんた。レインのこと」

 ラグナはやはり応えない。スコールの出方を窺ってでもいるかのような、彼にしては慎重な態度に、もはや疑いようもなかった。

「全部説明が付くんだ。エルオーネの能力も、アデルがエルオーネだけを浚った理由も、俺のカードの変化も、あんたが異様なほどここの人間に疎まれてるわけも、未だにレインがあんなにも慕われ、俺にまで期待を籠めた視線を投げられるのも。……俺だけにレインが見えるわけも、これはエルオーネと似たような力なんだよな……?」

 ラグナは瞠目したまま、血の気の引いた口唇を震わせていた。スコールと出逢ってからこっち、想い出が減るからなどと嘯いて彼がレインのことを殆ど話さなかった真の理由は、これ以外にはないだろう。

「レインのこと、俺に教えたくなかったんならどうしてこんなところに連れてきたんだ、ラグナ……」

「……なにを」

「サロメ……って、さっきの人。上りゆく太陽神の意味だろ。それに豊穣の女神レイントと、エルは白い月の雄牛神だ。そういうことなんだろ。レインが百合を好きだったはずだ、レイントはリリスなんだから」

「……どうして……」

「わかるさ。キスティスもセルフィも傍系だからな、ちょっと考えれば結論なんか簡単に出てくる。魔法のハインのもうひとつの系統、血統で受け継がれてゆく生まれついての魔女の血筋を守るための村なんだろ、ここは。だから余所者のあんたがレインに指輪を嵌めさせて魔力を封じるなんてことは、ましてや子まで成して血を薄めるなんてことは、ハインに対する度し難い冒涜だったわけだ。あんたその頃から知ってたのか? 知っててレインに近付――」

「違う!」

 悲愴な叫びだった。

 肩は震え、顔は泣き出しそうに歪んでいる。握りしめられた手は血の気を失って白く、何かに藻掻いているかのように揺れている。ふるえは足の先まで拡がり、自分の視界のほうが揺れているのではないかと疑えるほどの錯覚に、スコールは眩暈を感じた。

 ああ、初めてこの男が怒りをあらわにするところを見た、とスコールは、何故かその貌に微笑を浮かべた。浮かべたつもりであった。

 ラグナが先程の激情も既に忘れたかのように、貌に驚愕を刷き、その表情のまま、無心な体で近付いてくるのを視界に入れていた。近寄ってきて手を伸ばされ、笑っているつもりであったが、スコールの頬にふれたラグナの指は濡れている。今日は涙腺が壊れているらしい、と他人事のように流れる液体を外から眺めた。

「そんなにも……今でもそんなに怒れるくらい、あんたは傷付いてるのに……」

「……スコール?」

「どうして誰もあんたを赦そうとはしないんだ……あんたはいつだって英雄なんてやめていいのに。どうしてあんたさえ、自分を赦してやらないんだ……」

 女神の体現である乙女は神像に油を塗り、花輪を掛け、無原罪の御宿りによって神の初子を授かる。それこそが運命に供犠せらるるべき英雄という名の神供。神聖にしてふれてはならぬ不浄のサケル。

 人の世の王を定めるのはかつて、三相一体の女神であった。それが聖婚。やがてハインに対する信仰も薄まり、父権制度の台頭と共に女神は魔女と呼ばれその立場は貶められたが、今も魔女に認められることを多く人々は望む。現在に於ては魔女の騎士が最たる象徴であろう。それはかつては聖王と呼ばれた女神の夫であり息子であった。

 今の世では何の意味もない王の称号を得たがるのは、未だ母権制度の色濃く残るガルバディアでこその話なのかもしれない。少なくとも未だ女神を祀るウィンヒルに於ては、その権力は絶大なるものなのだろう。だが聖なる婚儀によって女神に選ばれたる男は英雄となり、輝ける月の女神イオカステに選ばれたライオスとオイディプスの物語のように、次代の王でありその聖王の生まれ変わりでもある息子に屠られ、神の贄となる運命にある。まさかラグナとスコールが、本当に親子二代に渡って世界に英雄と崇め奉られ、命を賭して魔女に纏わる運命に翻弄されることになったとは、この村の誰も思いも寄らないことなのだろう。運命に殺されることもなく、のうのうと生き果せたまま王たり得ているラグナを、ウィンヒルの住人は未だ恨んでいるに違いあるまい。

 しかも英雄の妻の息子に弑されたのは、女神のほうであったのだ。人々は大いに焦ったことだろう。それは今迄自分達を、世界を、支えてきた信仰の根底が破壊されることにも等しかった。

 憎き稀人神、余所者の王を殺す子に育つかもしれなかった彼の子供を、だが、だからこそ村人達は彼の許に遣ることなどはできなかったのだろうとスコールは思った。スコールの存在が村人達によってラグナに秘匿されたのは恐らくこのためであろう。ウィンヒルの人間にとってスコールは、死して黄泉返ることもなかった異教の偽王の移し身などではなく、失われてしまったレインの生まれ変わりでなければならなかった。男子であったから、或いはエルオーネとの婚姻により血を浄化することすら考えられていたやもしれない。

 だが時代がスコールという英雄を必要としていたことを、アルティミシアに乗っ取られてまさに時間圧縮を行おうとしていたアデルも知らないアデルの過去を、攫われ明視を強要されていたエルオーネはよく知っていた。そして聖婚の儀祭の意味を、誰より身に染みて知っていた。

「レインと引き替えに思いがけず救ってしまった世界を、守り続けることが贖いになるとでも思ってんのか……?」

 レインは恐らく、指輪を外しさえすれば死ぬことなどなかったのだろう。ラグナが何の意味も知らず無邪気に贈った指輪を死ぬまで離さず、ちからも使わぬまま愛しい男の子供を抱いて、あの微笑みを浮かべて静かに逝ったのだろう。

「スコール……一体」

「ちが……レイン殺したの、あんたじゃなくて俺なのに……」

「違う! スコール、それは」

 ラグナさえ居なければ、彼女が死なずに済んだのは確かかもしれない。だがレインを失って一番に嘆いたのが誰だったのか、考えればわからぬこともなかったろうに、女神を崇めることが最大の信仰であった村人達には、それも見えない。敢えて見ないようにしていたに違いあるまい。そして、ラグナが本当に変わらぬ笑顔で居られてしまうが故に。

「英雄で在れば、殺されると思ってるのか、俺が殺しにいくとでも思ってるのか」

「え?」

「殺さなくちゃあんたは救われないのか、ちがう、厭だ……ラグナ」

「……スコール……?」

「あんたはレインと生きなきゃならなかったのに……」

 もはや何を言っているのか、自分でもよく理解し得ぬまま、スコールはただ一心にラグナに訴え続けた。何を希念しているのか、あまりにも多く希みが過ぎて何も希みなどないような感ではあったが、もしただひとつ、確実に言えるとしたら、ラグナの生、それのみを欲していたと言っても良い。

 抱き込まれた腕の中で、スコールは女神と同じ色の瞳を見開いた。それすら危ぶんでいるのだと、ようやく気付いたようであった。

 音を立ててひいてゆく血の気に、おおきく震えて無理矢理に身体を引き離した。

III

 スコールが何を思い涙したのか、ラグナにはわからない。彼の発した言葉の殆どは不明瞭かつ難解で、混乱さめやらぬラグナには到底理解のできるものではなかったが、それでも彼が、自身を嘆いて泣いたのではないことだけはわかった。

 レインの、そして自分の出自を、何事でもないかのようにあっさりと切り捨て、スコールの意識が向いていたのは何故かラグナのようであった。

 オダインが新たに開発したという指輪に、何か引っ掛かるものを感じてラグナは当時、何故魔女封じが斯様なアクセサリで為されなければならないのかを問うたものだった。環にはそれだけで内にも外にも魔力を封じる力があるのだと、何処か切れた天才は事も無げに言い放った。

 特に左手の薬指に嵌める指輪は、心の臓からまっすぐ力の導管が繋がっているために、命を奪うほどの絶大の威力を示すのだと。

 結婚指輪の元々の意味は、愚かにも女神の力を封じ込めて自分が家父長にならんとする、父権制度を掲げる一族の侵略行為から発したものなのだと、ラグナはそのとき初めて知った。知り、驚くオダインを尻目に、獣の咆哮めいた悲鳴で慟哭した。レインの訃報を聞いたときにも流せなかった涙だった。そのときようやく、心からレインの死を理解し、彼女の不在は心の奥底に縫い付けられる。

 エルオーネの攫われた際にレインが話してくれた二人の素性はラグナにとっては何の意味もないことで、そんなことかと笑い飛ばしたいらえは眩しいほどの彼女の笑顔だった。あそこでまだ若干でも嫌悪感を示していれば、彼女が指輪を受け取ることもなかったのかと思わないでもなかったが、どれだけ過去を思い返しても、ふたりの間にはいつも笑顔しかなかった。そんな関係でしかあり得ず、だからレインは衰弱しながらもその笑顔のまま指輪を抱いて死したのだろうと、容易に想像できてラグナは泣いた。愛されていることに、ただただ泣いた。

 それ以来、スコールと出逢うまで、ただの一度として流せなかった涙。

 彼女の抱いていたのが、指輪だけでなく子供もだったのだと聞いたとき、あまりの彼女らしさにはつい笑ってしまったほどだった。ラグナを守るため以上に、子供に力を継がせぬよう、レインは自らの魔力を封じたのだろう。他人と違う力を持つことが幸福か不幸かなどということは彼女達自身が決めることであろうが、そんなものを持とうが持つまいが愛されることを、そして愛することを、彼女は知った。運命など何も持たずに息子が何を得るのか、レインは見たかったに違いあるまい。それが成功したのかどうかはラグナにはわからない。レインと出逢うずっと昔からその子供はラグナの不思議な妖精さんで、未来の魔女を倒すであろう英雄だった。強大なガーディアン・フォースを従え天地を揺るがす魔法を操り、そうして今、レインの過去を垣間見ることまでしてのけている。

 だがそんな力など過去など、まるで意に介さずにどうやら彼は、何事かラグナの心配なぞしているらしい。ちいさなちいさな人間だった。世界よりもたった一人の人間を優先させるような、レインにもよく似た卑小な強さを持った、慈しむべきちいさな愛し子だった。

 レインよりエルオーネより、世界を選んだラグナとは対照的に。

 ラグナの身体から目を見開いて身を起こしたスコールは、よろけて脇にあったテーブルに手を突いている。もはや涙は溢れてはこず、ただ流れた痕のみがあかく目尻に残っている。ひどく何かに恐怖するかのような表情であった。木の古びた机が、彼の震える手にカタカタと鳴りこまかく揺れている。

「どうして……連れてきたのかを、訊いたな」

 ひくりと揺れた身体が返答だった。

「レインのこと、何も話せなかったから。話して、オレが彼女を殺したんだってこと、おまえに知られたくなかったから。違うよ、スコール。指輪の効力知ってんならわかんだろ? レインはオレのせいで死んだんだ。おまえを産んだせいじゃない」

「ちが……」

「オレは卑怯者だからおまえに伝える勇気なんかなかった。でもおまえにあげたかった、レインを」

 そうして微笑む。スコールは首を振っている。

 大方は真実であった。それだけだとは決して言えぬが、スコールが母親を殺しただのと思っていることに耐えられず、ラグナはそれを真実にした。

 おしなべて結果というものは、何かひとつに要因を求めることは不可能なのであろう。何処までも原因を探っていったら、レインの死は始祖ハインに根差しているとさえ言える。スコールの言ったこともあながち間違いではなく、彼が自分が殺したと思うのならばそれも真実になる、なればこそ。そんなものからは遠ざけてしまいたかった。

「スコール。……そばに行っても、いいか?」

「……え?」

 理解が追いつかず、許可を出す前に近付いた身体に、彼が身を強張らせるひまもなく、ラグナの体温はふれた。スコールの手に被せるように机に手を突き、薄い胸に頭を垂れれば、グリーヴァがチャリ……とかすかな音を立てる。硬質なその音と共にやわらかな心音が聞こえたのに、ラグナは軽く笑みをこぼした。

 そのままふたりとも何も言わず、或いは言えなかったのかもしれないが、ただ静寂のみが暫しの時間、部屋を支配していた。互いの息遣いと鼓動だけが妙に耳の奥にこだまし、何処か居た堪れないような、だがずっとこのままで居たいような感覚にも陥っている。

 とくり。とくり。……。

 どれほどの時間が過ぎたのだろう。どちらが動いたとも言い難い、空気をわずかに揺らす程度の筋肉の動きに、どちらからともなく顔を、視線を合わせた。互いの瞳に互いの色が映っている。

 ああ、発情している。そう思ったときには、色は伏せられてくちびるは重なっていた。

 レインが見ていた。

IV

(好きな子としか踊らないってやつ?)

 そう言われたのが既に随分と昔のような気がしてスコールは、目を細めて切なげに、当時を憶い返した。

 愛を交わした相手としか性交せぬ、食事の時間にしか物を食べぬ、休み時間にしか排泄せぬ、夜にしか睡眠を取らぬ、それらが当り前に善いことであり、それを守らぬことは当り前に悪いことであるとされる、そんな暗黙の内に流布している常識。

 そんなものを守らずとも生きてゆけることに気付いてしまった。気付かざるを得ない。欲求を満たすために経ねばならない猥雑な手続きの無意味さに、生理的欲求までもが文化に左右されている事実に、今スコールの感じている欲望は気付かせるに足る力を持っている。

 発情している。同性の身体に。親のこころに。

 視線の先で、ベッドに縫い付けられたラグナは困ったように微笑んでいる。困らせているのを承知で、体重を掛けて圧し掛かったまま、スコールは口吻けた。

 それは愛などではなく、性的嗜好でもなく、ただ飢餓でしかないやもしれなかったが、それでも確かにスコールはラグナに発情していた。だがこれもが、純粋な欲求から離れた文化によって生まれたものだということもまた、スコールは理解していた。

(あたし、ラグナ様に欲情するん)

 セルフィが以前、面と向かって発した言葉。彼の息子に臆面もなくそう宣った少女は、何処か哀しげな色を乗せて、スコールの頬を愛おしげに撫でた。

(歪んでる。胸さわられるよりペニス入れられるより、頭撫でてもらったり頬ずりされたり、そんなことのほうがよっぽど欲情する。その気になればセックスする相手なんていくらでも見付かるだろうけど、頭を撫でてくれる人なんて、ほんでそれをあたしたちがよしとする相手なんて、居らんかってんか。そないなこと、したこと、されたこと、なかってんか……)

 そう言った少女の目はあどけなく色欲と哀しみに濡れていて、そのままふれあった口唇は、飢えに乾いて震えていた。

 むしろ親だと知ればこそ欲情する。親というよく知りもしなかったはずの言葉の意味を食べて餓えを満たされたかのような錯覚に陥り、そこに信じてもいない永遠を感じて発情し、スコールは嗚咽のように途切れとぎれの熱い吐息を洩らす。

 意味を食べなければ生けていけないことに絶望し、レインを殺した文化やら宗教やら得体の知れぬものに身体の蕊まで蝕まれていることに絶望した。自分はラグナに発情しているのではないのだと知り、疼くような傷みに胸を掻き毟りたい衝動に駆られる。文化を纏って生き、彼の性ではなく生に発情する。愛にも近い擬態じみた孤独。

 好きだというのならリノアのことが好きだった。限りなく軽く軽く振る舞う嘘吐き振りはラグナにも似て、それでラグナを好きだと言うのならば言っても良いと思った。言っても良い、が、それこそスコールが壊したくて仕方がない陥穽であった。すべての本性を覆う虚飾、本音を侵略するモラル、文化によって作られた欲望、レインがスコールを生むことによって壊そうとした聖なる天蓋は、スコールにとってももはや忌むべきものであった。

 それを壊した先には、指輪に奪われる命のように、別の被覆があるのだろうことを知ってはいても、壊そうとする以外に自分の生まれた意味などないとしかスコールには思えず、彼が確かに自分が母親を殺したと感じていることを浮き彫りにする。そして同じ考えを抱いてずっと嘖まれてきたのだろう男は、その愛しい母親の愛する男だった。

「あんたからレインを奪うんだ」

 くちびるは離れて、吐息も掛かるほどそばに寄せたまま、睨み付けるようにも淋しげにも眉根を寄せて囁けば、口唇から波紋のように震えがラグナの身体に拡がった。

「愛なんてこの世にはない、ラグナ……」

「……どうしてだ?」

「あんたがずっとレインを愛し続けてるから。殺したと思ってるから、あんたには永遠の愛があるんだろうから。そんなのは幻想だ、ラグナ。全部。レインを愛さなきゃ生きてちゃいけないなんて幻想、あんたは壊さなくちゃならない」

「……わからない」

「わからなくても、壊す。俺が。そうしなきゃあんたは生きられない。レインを殺したあんたがあんたの裡に在る限り」

 ラグナは首を傾げただけで、否定も肯定もない。ただ、つと手を伸ばして、スコールの頭を撫でただけだった。

 スコールの咽喉が鳴る。肌は艶を孕んで潤い、色めき立って汗が粒と現れ出た。

 生成シャツの釦鈕を外す節くれ立った長い指はこまかく震え、爪が四つ穴の白蝶貝に当たってかすかな音を立てたが、ひとつ、ふたつ。確実にそれは外されてラグナの胸、筋肉に覆われた彼の身体を露わにしていった。

 くちびるをそっと下ろした肌は、細胞のひとつひとつが隆起して筋肉を形作っているかのような、荒削りで猛々しい、それでいてすべらかな肌だった。筋肉が何処に存在するのか疑問を抱いてしまうほどやわやわしい、リノアの肌とはまるで別物の身体だった。ラグナから洩れた溜息のような吐息が何を意味するのか、考えることも放棄してひたすらに口唇を這わせた。

「俺もあげたいと思ったんだ……レインを」

 やがて肌も一面に光を反射するほど濡れた頃、スコールは徐ろに口を開いた。言葉と共に洩れた吐息で肌が震える。

「……レインを?」

 ラグナの声に変化はない。押しのけようと思えばすぐにでもできるだろうに、何を考えてか、彼は何も言わずスコールの好きにさせている。

「あんたが俺にレインをあげたいって思ったように、俺も思ったんだ。幻でも何でも、あんたにレインを見せてあげられたらいいと思ったんだ。だから喚んだ」

「……そっか」

「でもやらない。もうやらない」

 あたたかな身体から口唇を離し、顔を上げれば困ったような表情のままのラグナが視界に入る。見ていたくなくてか、スコールは目を瞑り首を振る。

「あんたはレインが居なくたって生きていけるんだって知らなきゃいけない、自分で。誰かを愛さなきゃ生きていけないなんて幻想、壊してしまえ。レインを愛さなきゃ生きていちゃ駄目だなんて幻想、壊してしまえ。でないと、あんたは」

 ラグナが自殺なんかするような人間だったら、まだこんなに彼の生を希みなどしなかった。

「でないと?」

 ラグナの声はあくまでもやさしく穏やかにスコールの耳朶をくすぐり、激している己に恥じらいまで浮かんでくる。俯いたら咽喉は押されて、こえはちいさく掠れた。

「……と……」

「それを知ってレイン以外の人間と寝れるようになれってか?」

 バッと顔を上げた。ラグナは笑んでいる。あの何処までも無邪気に見える笑みで。全身が震えた。

「知ってるよ。レインじゃなくたって感じることくらい、レイン以外を愛せるんだろうことくらい、レインを愛さなくたって、誰も愛さなくたって、生きていけることくらい、知ってるさ。ホントに何もないと思った? 十七年間、誰とも何にも関係がないと思った?」

 スコールのくちびるは震えてしろい。おこりのように熱の引いたからだを震わせるスコールを、眸だけがいたく傷付いた色を見せる笑顔の崩れかけのような表情のけものは、抱き寄せてあっさりと陥ちた身体の耳許に囁いた。

「……ほら、こう言うとそんな傷付いた貌するくせに。ずっとレインを好きな父親で居てほしいんだろ。それともだからオレに抱いてほしい? スコール。レインのように、レインの代わりに。そうすればオレがずっとレインのものだと実感できる? それとも」

 それとも。

 その先は口唇に吸い込まれてわからなかった。仰向けられた身体におおきな手はくまなく探るかのように這い回り性感を煽り声を上げさせられ、ふれられていないところなどひとつもなくなった頃に貫かれて、もはや何故こんなことになったのかすら忘れた。

 ただ、ラグナは終始、熟れた欲情より言いようのない哀しみを乗せた眸でスコールを見詰めており、それがこどもに喪失を憶い出させ必死でゆびを搦めさせた。からんだ指は離すまいと、入らないだろうに一途に力を籠め、ラグナはそれを握りかえし、まるで恋人同士の営みのように。

「スコール。おまえに逢ったから、もうそれはわかってるんだ。確かに永遠の愛なんて幻想、何処にもないんだろうよ。そんなもん、相手の居ない世界で妄想遊ばせるしか成り立たないもんなんだろうよ。だから俺はレインを殺して愛し続けてた、ずっと。彼女の居ないことが痛くて、耐え難くて。けどよ……おまえに出逢ってあれは絶対取り戻せねぇくらい過去なんだって納得できて自分でも信じられねぇくらい泣いて泣いて、やっとちゃんとレインを、オレの中で生き返らせれたんだ。だからもう、レインを愛さなくってもオレは生きていける。死んだレインを愛し続けるより、生きたレインを愛さないでいるほうがずっといい。オレ今、こんなにもレインを愛してる……スコール。聞こえてるか……?」

 ラグナのこえは何処か遠く、身体の奥深く、記憶の彼方から響くかのように漣立ってスコールのこころを震わせた。受け入れさせられた苦痛と快感に意識の大半を奪われて、意味もわからぬままに言葉のさざめきに、深い深い誰よりやさしいその声のそよぎに、首を揺らした。

 スコールの首にはグリーヴァと、もうひとつ、いつもはシャツに隠れて見えない指輪を通しただけの細い鎖が掛かっており、ぶつかりあって金物の擦れる痛々しい音を立てた。それはレインの力が籠められたあの指輪と、いつか世界を滅ぼそうとする魔女の従えるガーディアンの共存。

 それに目を遣ったラグナが、何やら呪を切るように口の中で詠唱を唱えたのを視界の端に捉えたが、意味を解することもできぬまま、ただ最後にひとこと、囁かれた言葉だけをスコールは理解した。理解し、目を見開いた先で、ラグナは微笑んでいる。

 そんなつもりではなかった、と恐怖に震えた。そんなことがあって良いのか、と歓喜に震えた。

 これは愛などではなく、性的嗜好でもなく、ただの飢餓ですらなく、レインを殺した世界に対する復讐にも近いもののはずだった。取り戻したかったのは彼女を閉じ込めていた世界に囚われているラグナの生、それだけ。それだけのはずだった。

「好きだ……」

 再びささめかれた言葉に、涙を零した。

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