「そういえばシーツー」
「何だ」
「おまえ、マオにギアスを授けたのが十一年前だと言っていたな。今だと十二年前か」
「言ったな。それが何だ?」
「おまえが嚮主の座をブイツーに譲り、嚮団を出たのが八年前――いや九年前か、母が殺された直後のことだ」
「……ああ」
「おまえの話だと、マオを育てていた期間は二人きりだったように聞こえたんだが?」
「もっと言えば九年前、嚮団を出た後、私は日本に来ている」
「何だと?」
「おまえを見てくるよう、マリアンヌに頼まれたんでな」
「……それはそれは。で、マオを育てた期間は一体いつだったんだ?」
「二人きりだったのは八年前から四年前だな」
「ん? とすると、ひょっとして嚮団の人間だったマオを九年前に一緒に連れて出ていったのか?」
「正確に言うと少々違うが……まぁ、概ねそんなところだ」
「正確に言うと、マオがついていったのか」
「正確だな」
「おまえもブイツーのように、ギアス能力者を量産していた、という認識で正しいな?」
「ああ。マリアンヌやビスマルクも、或る意味その一員だ」
「とすると一つ疑問がある」
「なんだ」
「おまえは少なくとも十二年前から九年前までは嚮主として子供達にギアスを授けていた」
「そうだ」
「そしておまえはロロの存在を知らなかった」
「……ん?」
「ロロは少なくとも十一年前にはギアスを有していて、ブリタニア帝国配下として暗殺をしていたんだが」
「……ほぉ」
「本当に知らないんだな。嚮団とは無関係にブイツーがギアス能力者を大量生産していたということか?」
「……いや、その頃は……妙だな。おまえ、ロロの能力を失敗作だと言っていなかったか」
「俺が、というよりブイツーだな。発動中は心臓が止まるから、いつ死んでもおかしくないのは失敗作だ、というようなことを言っていた」
「ふん? ……おい、もうちょっと知ってることを話せ」
「何かあるのか。と言っても、俺もあいつの能力については然程詳しくないぞ。時間制限は約十秒、自分を中心に遮蔽物関係なく球形に展開、効果範囲展開時に心臓の停止、それによる展開範囲の限界が半径最大で一キロ程度、範囲展開後の侵入者については無効、逆に範囲展開後の主体の移動で対象が効果範囲外に出ても効果持続。そのくらいだ」
「……失敗作?」
「では、ないのか?」
「いや、私から見たらどうしようもない失敗作だよ、確かに」
「どういう意味だ」
「どういう意味も何も。私の望みはコードの譲渡にあると言っただろう、常時発動に耐えられない制約があると、その者は恐らく達成人にはなれない」
「成程、確かにそれでは失敗作と言えよう、だが……」
「そう。ブイツーは別に、死ぬことが望みではなかった。当然コードを譲渡するつもりもない。そういう意味で、ロロのような制限事項をして失敗作と言うとは考えにくい」
「長いこと使い続けられないから、とか?」
「おまえが言ったんじゃないか、十一年前にはもう働いていたと」
「充分……か」
「別に死んだとしても能力者なんて幾らでも作り出せるしな。或る意味素質が強くなかったのが幸いだったんだろう。……とは言っても」
「とは言っても?」
「マオのギアスを強い、と私は言ったろう」
「ロロのはそれより強い、か?」
「半径キロに渡り、遮蔽物の影響もなし、相手を視界に収めている必要もなし、心臓の制限さえなければかなり強いギアスだ。私の知る限り最強の部類に入る」
「つまり貴重だった、と?」
「どうだろうな、少なくとも嚮団の目的には合致しないタイプだと言ったろう?」
「確かに集合的無意識の謎を探るには向いていなさそうなギアスではあるが……つまり稀少ではあっても貴重ではなかった、か?」
「だが問題は、当時ブイツーが嚮団にはあまり関わっていなかったということでな」
「おまえが読み間違いをしていたと?」
「ロロとやらがそんな昔から暗殺を請け負っていたなどとは、誰かさんが秘密主義だったお蔭で知らなかったからな。嚮団とは無関係の、当時のブイツーとしては重宝していたのかもしれん」
「ブリタニア体制に異を唱える主義者相手の仕事が多かったようだ」
「成程、シャルルのために、あいつならやりそうなことだ」
「ふむ。だがそれで長時間使えなくては困るとしても、失敗作とは言い難いのではないか……?」
「それ以前に、あの時期にブイツーがなぁ……」
「おかしいのか」
「正直、暗殺くらいならできるだろう能力者は嚮団にも居た。私が与えたギアスだったがな」
「おまえ、実はブイツーと仲悪かったんじゃないか」
「まぁ……良かったとは言わないが。しかし嚮団をブイツーが体良く利用していたことは確かだ」
「わざわざ外に能力者を作り出す意図が不明だ、ということか?」
「発現する能力をこちらの意志で選べるのならば意図は明確だ。しかしこちらとてギアスは一方的に目覚めさせることができるだけで、どのような能力が発現するかは、与えてみるまでわからないからな」
「つまりブイツーは、利用するつもりでロロにギアスを与えたのではないと? 暗殺に利用していたのは結果論に過ぎないわけか」
「わからん、どのような能力が発動しても構わなかったのなら話は別だしな」
「嚮団の目的に沿うのならば、それもおかしいことではないのだろう。が、それが考えにくいということだな?」
「まぁな。尤もブイツーも気紛れだ、偶々拾った子供を嚮団に放り込むつもりでギアスを与えたというくらいならば充分考えられる」
「全く、どいつもこいつも」
「しかしその後、暴走もさせずに長持ちさせるつもりがブイツーにあったのだとしたら、ひょっとしたらロロは嚮団で育てられたのではないのかもしれないな」
「何故だ?」
「嚮団も遺跡と似たようなものだ。神根島でおまえの暴走が早まったように、そこに居るだけで影響を受ける」
「成程。しかしロロは嚮団の子供達の顔を知っていたし、それはないな」
「嚮主になった後はあいつも好きに量産してただろうからな、既に一人の暗殺者程度は必要なかったのかもしれん」
「言うことが二転三転してるぞ……結局何もわからないということか」
「当り前だろう、私はシーツーであってブイツーではない。何だったらあいつの記憶を覗いてくるが」
「……いや。良い」
「だろうな。……ルルーシュ」
「何だ」
「……いや、何でもない」