デーモン・トリスメギストスのディーヴァ

 大前提として、わたしは「霊界探偵業草案当時の幽助の仲間は、ぼたんと蔵馬の2人の予定だったのではないか」と考えていることを踏まえ、次ページ以降の人物紹介は、すべてこれを元に構成されていることを承知されたい。

 幽助の人間界復帰に於てぼたんが「霊界から事件の指令をあんたに伝える霊界伝言番、探偵助手のぼたんよ、よろしくね」と再登場し、直後「出動!!」というタイトルで、幽助の霊界探偵としての仕事が始まったことは言うまでもない。ぼたんはこの時点、完全に幽助の仕事のサポート役であり、後見とも言える立場であった。この時点での「ぼたんが幽助の仲間」という概念は、あまり疑問を持たれることはないと思われる。

 さて、この霊界探偵・幽助にとっての最初の事件が、闇側の三大秘宝(光側もあるらしい)盗難事件だったわけだが、彼がそれを盗んだ3人──剛鬼、飛影、蔵馬を発見した時点で、既に蔵馬は飛影、剛鬼と袂を別っている。暗黒鏡窃盗から母親の助命と執行猶予という蔵馬に関する物語の一連の流れは、この時点から無理なく物語上予定調和の一環であったことは疑いようもない。つまり蔵馬は登場時からして、幽助の敵とはならないキャラクタとして設定されていた、ということである。

 さて、幽助が霊界探偵としての仕事を始めるその記念すべき回、即ち「出動!!」の巻で、タイトルに描かれているのが、指令を発する立場としてのコエンマと、それを伝える立場としてのぼたんと、実行する立場としての幽助と、今ひとり、黒いシルエットで描かれた人物である。

 同話に於いて蔵馬、飛影、剛鬼のシルエットが描かれているが、タイトルに描かれているシルエットは蔵馬にそっくりである。これは対立する妖怪の象徴として描かれたものであろうか。否、もし蔵馬なのだとしたら、この時点で既に敵ではない。だとすればこのシルエットの立場は、味方陣営に収まるべき象徴であると考えたほうが自然だろう。無論、全く別の敵としての無名の妖怪の可能性もある。が、もし予定としての仲間がぼたんと蔵馬だったとしたら、この時点、霊界としては(作者としても)非常に幽助との組み合わせが良く見えただろうことは確かである。

 幽助/ぼたん/蔵馬の3人は、幽助を中心に据えて幽助を育てるためのチームとして考えた場合、物語の定型として非常にバランスが良く理想的である。能力的に見て、(対飛影戦のように)戦闘に際しては攻撃役としての幽助、回復役としてのぼたん、補助役(兼ピンチヒッタ)としての蔵馬。事件に際しては指令受理、調査役としてのぼたん(ドジな性格も、分析のための境界条件提示にはぴったり)、考察、分析役としての蔵馬(最後までホームズなワトソン役)、決定、施行役としての幽助。霊界、人間界、魔界からひとりずつという三竦み(違)も具合が良く、霊感応力(桑原の章で後述)の低い幽助にサポートとして、霊具(これが恐らく光側の秘宝に当たるものだろう)を扱えるぼたんと、妖具を扱える蔵馬とか付いていることになる。また性格的にもぼたんと蔵馬は、野放図で利かん坊の幽助をあやして方向性を与えるのに丁度良い、長寿のためか安定した、幽助向けに作られているとさえ勘繰りたくなる人格である。端的に言えば、誰か(この場合は人を恋うことを恐れている幽助)に愛されること(必要と思われること)を必要とはしない人格である(から、あの2人どちらにも最後まで恋愛要素が適用されなかったというのは個人的にとても納得)。

 そもそもがチームとしては、偶数は意思決定の際に不安定なため、奇数であるべきであって、それはレベルEやH×Hを見ても作者自身が存知している。特に4人は安定が悪い、多数決で3対1となる可能性が高く、そうなった場合目も当てられない。それに比して、3人はチーム物としての定番の形である(幽助/ぼたん/蔵馬の構成はゴン/レオリオ/クラピカの構成に近い)。

 また、もし4人組を前提として当時のキャラクタ造形を見たとすると、実は蔵馬だけが4人の中では年齢的にも能力的にも浮いている(能力についての詳細は蔵馬の章で後述)。また桑原は戦闘能力的に、そして飛影は性格的に、当初のままの設定だと仲間としては無理がある。

 それでもチームが4人となった理由についてはまぁ色々と臆測できるが、端的にバトル物としての物語が求められたがために、少なくともぼたんは加えるわけにいかなくなったのだろう。そのために色々と無理をしたらしいことは見て取れる(敵キャラが味方キャラの補充要員ってのを作者が口にするのは反則だと思っ…。)。桑原と飛影は、仲間として加わるため物語で急ぎ足に変更が加えられたとわたしには見え、蔵馬以外が当初仲間の予定だったとは少々考えにくいのである。

 ということで、「蔵馬は元々仲間の予定であった」「桑原と飛影は元々仲間の予定ではなかった」という推測を基盤として、4人の物語進行上に於ける性格形成について論じてみることにする。