「お」

「おや」

「これ、あれだろ。晴れてんのに雨が降るってーの。狐の嫁入り」

「ええ。昔オレが中国の皇帝を誑かして婚儀を上げたのがこんな天気の日だったので」

「マジすか」

「冗談です」

「……。で、実際の所なんでこれが狐の嫁入りなんだよ」

「人間の作った代物だからオレがどうこう言えるものでもないんですけどね。幾つか説はあります。単に天気雨が不気味だから、こんなことが起こるのは狐が婚礼か何かしているに違いないだとか、結婚の様子を人間に見られたくないから狐が雨を降らせてるだとか、稲荷神と雷神の関係性からだとか、農業神としての狐のお告げだとか、境界神としての狐の結界だとか」

「ふーん。ほんっとーに、妖狐は何処にも何にも関与してねぇって口振りだな」

「人間の作った妖怪奇譚に実際妖怪が関わってた事例を調べたら、面白いことになると思いますよ。オレとしてはこの狐の嫁入り、何処から来たと実際には考えてるか、言いましょうか桑原君」

「なんだ、言っちゃマズいことなのか？」

「マズい話なんかありませんよ。安倍晴明って知ってます？」

「ああ、あの霊能力者の妖怪退治屋！　テレビでやってたよな」

「……まぁ、それです。その安倍晴明の母親ってのがね、狐だとされてるんですよ」

「え。まさか浦飯みたいな何だっけ、魔族大隔世……」

「違います。この場合の狐というのはね、朝廷に対立していた人々のことを指すんですよ。狸や鬼なども同様です。あの時代の朝廷の人間、つまり貴族が、自分等に反発する庶民を人間とも認めていなかった証拠です」

「ん？　それって晴明が庶民の出だってことだよな」

「そう。だから、彼は式を使役できたんです」

「……だから？」

「だから、です。式神は小説や漫画なんかだとまるで超能力の具現のように描かれてますけど、実際にはただの人間です。庶民の血を引く晴明に仕える使役人、だから貴族には見えない」

「……すいません蔵馬さん話が見えません」

「うん、君にはね。わからない話だと思う、垂金の屋敷で、雪菜ちゃんが酷い扱いを受けてたって言ってたでしょう」

「……あれは、酷かった。けど、それとこれに何の関係が」

「まぁBBCの連中は更に特殊かもしれませんが、人間の範疇にない相手には、人間はそうできる傾向が強いということです。つまり、貴族にとって式は謀反人でありヒトでなかったから、当然視界にも入らない不浄のモノであった、ということです。視界に入れたら目が腐る対象だったんですよ、だから式は不可視のモノとして機能していた」

「ヒトで、ない……」

「で、話が戻ります。狐の嫁入りって、結局それじゃなかったのかと思うんですよ、オレはね。狐がヒトに見せまいとしていたというよりは、当時のヒトがヒトならぬものを見ようともしなかった象徴、視界を遮るための天気雨であり、逆から見れば天泣だったのではないかと。だから桑原君、君がそんなこと、わかりもしない人であるから、オレは嬉しい」

「おまえ」

「君が幽助の、人間の友達で良かったと心から思ってる」