魔界の扉編で、どうしても不明なところがある。あの7日間を纏めると、
となる。が。
不思議なのは5日目の蔵馬だ。海藤曰く学校を休んでいたということだから、午前中から何処かへ出掛けていたのだろう。この理由について、6日目の幽助に対する説明だけを聞くと、コエンマのところへ行っていたように思えてしまう。
しかし、これは2つの点から、嘘ではないが正しくもないことが明確となる。2つの点とは、
である。
つまり、蔵馬がコエンマのところに行ったとしたら午後、つまり幽助の呼び出しに応えられなかった理由がこれである可能性が高い。そして午前中、コエンマのところではない、何処か別のところに行っていた、ということになる。
更にもう1つ。5日目の昼時分、コエンマの言葉を受けて幽助は「蔵馬達に連絡してヤツラのアジトに直行」と言っている。このことから
ということがわかる。
このとき、仮に幽助は誰か1人にしか連絡をせず、その人から皆に集まるよう伝えてもらったのだとしても、蔵馬を差し置いて先に海藤や柳沢に幽助が連絡を取るとは考えにくい。幻海には、彼女に対しては連絡をしたとしても、彼女から蔵馬達に集まるよう伝えてもらったとはもっと考えにくい。つまり、海藤が来ていることから、幽助はぼたん訪問後の昼以降、蔵馬に集まるよう連絡を付けたことがわかるのである。
このとき蔵馬が会合を断っていたのならば、幽助は「蔵馬もどっか行っちまった」と驚きはしない。「どっか行っちまった」という言葉が端的に示すとおり、昼時分以降、急用ができて蔵馬は何処かに、前述で考えるならばコエンマに会いに、つまりコエンマが首謀者の正体を知っていることに気付き、確認しに出掛けなければならなくなったのである。
(これを誰か──海藤に知らせていたかどうかは不明。「蔵馬もどっか行っちまっただー?!」「今日は学校も休んでたよ」という字面だけを見ればそう考えられなくもないが、海藤が「(連絡を受けて)南野は来ないと言っていた」ではなく単に「(連絡は受けていないが)南野は居ない(朝から)」と言ったとしても、蔵馬は来ると思っていただろう幽助ならば「何処かに行ってしまったのか」と言えるからである。幽助にも知らせていなかったところを見ると、海藤にも誰にも言わずに消えたというのが妥当なところか)
何故急遽コエンマに会いに行かなければならなくなったのか。午前中は一体何処に居たのか。海藤の「今日『は』学校『も』休んでいた」という言葉から、或いは4日目も学校後には何処かへ出掛けていた可能性が考えられなくもないのは何故か。
その問いは、「何故コエンマが首謀者を知っていることに気付いたのか」という疑問と同義だろう。
1日目から4日目の何処に、コエンマと首謀者の関係を示すような事柄が存在した? 少なくともわたしには読み取れない。
コエンマがたったあれだけのことで首謀者を仙水かと疑った理由ならば、まだ推し量ることができる。恐らく10年前から仙水のこれからの行動を危ぶんでいただろうこと、また幽助から3日目に会った首謀者の外見について報告を受けていれば、ピンと来るところも当然あったろう。
だが、蔵馬は? その5日間で、当事者以外の蔵馬が、何処にコエンマと首謀者の繋がりを見出せた?
それが空白の5日目(と、もしかしたら4日目)である。5日目の午前中から幽助の連絡過ぎまで、蔵馬はそれを調べていたとしか考えられない。そうして気付き、且つ幽助には明かさなかった「蔵馬自身が調べようと思い気付いた理由」。
本来ならば物語上、ここで蔵馬に気付かせる必要は全くなかった。黒の章の話を幽助がコエンマにすれば、蔵馬の発見などなくとも、コエンマは首謀者の正体を明かさざるを得なかったろう。遅かれ早かれ幽助は仙水を先輩と知る進行である。蔵馬が首謀者とコエンマの関係に気付いたことは、物語にとっては完全に蛇足の域に入る。
無論、それに必然性を与え得る理由なら考えられなくはない。5日目、桑原を幽助が探しに行った際、もし蔵馬が居たならば簡単に桑原を発見し助けられた可能性が高く、そうなると桑原は次元刀の発現という機会を失ってしまう。それでは物語上困るから、あの時点で蔵馬を桑原から遠ざけておく必要があった、という理由である。
だがこの理由は弱い。単にあの日あの時間に蔵馬を動けなくするだけなら、他にも幾らでも方法はあった。あの物語の遊びの部分の意味、蔵馬がコエンマを疑った意味は、では一体何なのだろう。彼はここに表出した事象以外で、何か幽助や読者の知らない事実を掴んでいたということだろうか。
或いは万が一、表に現れ出ただけの現象で仙水と霊界の関係性を疑う要素があったというのならば、たったひとつ。
暗黒天使。この名である。
暗黒天使とは、ヘブライ人の始祖ヤコブと格闘したとされる天使である。格闘後、ヤコブは暗黒天使に「神と格闘する者」という意味のイスラエルという名を頂き、その地を「神を見て尚生きている者」という意味のペヌエルと名付けた。
即ち、神ともされてきた高等妖怪達と渡り合って生き抜いてきた人間。元霊界探偵、ダークエンジェル仙水忍。
冥界と首謀者の関係の可能性は、見える範囲ではせいぜいこのくらいだろうと思うのだが、どうだろう。これだけでコエンマと結びつけるというのもあまりにも難しい気がする。そうしてまた、これだと「何故蔵馬に気付かせなければならなかったのか」という、物語の要請外である理由が明確にならないのである。